医療機関において重要な役割を担っている看護師ですが、非常に忙しい仕事でもあります。そのため、新卒で看護師になった人の10人に1人は離職しているという現状があります。なぜ、看護師の離職率は高いのでしょうか。今回は、看護師の離職率の高さと解決策について、わかりやすく解説します。ぜひ、参考にしてください。
看護師の離職率の背景と現状
看護師にはどのようなイメージがあるでしょうか。「安定した仕事である」「一生懸命働ける」といったイメージを持つ方もいらっしゃる反面、「仕事が忙しい」「女性が多い世界であるため、人間関係が大変そう」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。実際、仕事の忙しさや、人間関係を理由に看護師の仕事を辞める方もいます。
日本看護協会が発表した資料によると、2022年度の正規雇用看護師の離職率は11.8%でした。内訳をみると、新卒採用者の離職率は10.2%、既卒採用者は16.6%となっています。設置主体別で離職率を見てみると、医療法人や公的機関の病院に比べて個人病院の離職率が高いことがわかっています。
都道府県別でみると、東京都が15.5%で最も高く、大阪府の14.3%、神奈川県・兵庫県の13.7%となっており、大都市部で高い離職率となる傾向が見られました。このデータから、新卒看護師の10人に1人が離職していることや、個人病院など人手が不足している医療機関で、離職率が高まっていることなどがわかります。
さらに慢性的に人手不足であることや、業務内容が多すぎて給料が割に合わないと感じている人がいることも、離職率の高さにつながっています。仕事が忙しすぎて、新人の育成まで手が回っていないことも離職率が高い理由の一つでしょう。
こうした傾向に拍車をかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。新型コロナウイルスの急拡大は、医療機関に大きな負荷をかけました。多くの医療機関で新型コロナウイルスの院内感染が発生し、医療関係者は対応に追われました。一部の病院では、陽性者の職員が陽性者の患者を看護するといった状況すら発生しました。
コロナ禍の混乱で大きな影響を受けたのが看護実習を受ける学生です。コロナ禍で病院実習が十分に行えない状態で就職したため、新人看護師の離職率が増加した可能性があります。もともと、離職率はある程度高かった状態であったにもかかわらず、コロナ禍の影響を受けてしまったため離職率が高止まりの状態になっているといえるでしょう。
看護師が辞める理由
看護師になるには、最低でも3年間の専門教育を受けなければなりません。教育課程を修了するには、病院での実習など大変なことも乗り越えなければならないにもかかわらず、新卒で10人に1人の退職者が出てしまう理由は何なのでしょうか。
離職者が多い理由の一つに業務のきつさがあります。医療の現場で仕事をしていると、精神的に「きつい」と感じる場面が多々あります。その一つが、重症患者の対応や患者の死に直面することかもしれません。死が身近にあるというのは、医療従事者独特の職場環境であるため「きつい」と感じたとしても不思議はありません。
人手不足のため、労働環境が厳しいことも離職の理由です。慢性的に人手不足の医療機関の場合、一人ひとりの看護師の負担が重くなりがちです。夜勤などがあるため、体力的に厳しくなることもあるでしょう。看護師の勤務は3交代制であるため、日勤から深夜勤、準夜勤から日勤といった不規則で休みを取りにくいシフトが組まれてしまうことがあり、体力的に厳しくなることもあります。
勉強会や研修会によって、業務負担がさらに増してしまうこともあるでしょう。また、人的余裕が少ない職場であれば、休みがとりにくいためリフレッシュしにくくなることも想定されます。
職場の人間関係が原因で離職する人も少なくありません。看護師間のいじめや嫌がらせ、上司や同僚からのハラスメント（パワハラ・セクハラなど）によって精神的に追いつめられるケースがあります。女性が多い職場環境で、女性特有の人間関係の難しさに悩む人もいます。さらに、医師との連携やコミュニケーションが上手く取れず、仕事が思うようにできないというストレスを持つ人もいます。こうした人間関係に起因するストレスで離職してしまう人も多いのです。
人間関係といえば、患者との人間関係に悩んで離職する看護師もいます。医療現場は人の生死に直接かかわる場であるため、繊細な対応が求められます。時には、患者本人や家族から理不尽なクレームを受けることもあります。ひどい場合には、暴言・暴力・セクハラなどを受けるケースもあり、それらに耐えられなくなって辞めるといったこともあります。
結婚や出産を機に退職するという人もいます。子育てが落ち着いてから復職することもありますが、状況によっては別な仕事に就くなどすることもあり、看護師不足の要因の一つと指摘されています。
以上のように、看護師が辞める理由は多岐にわたりますが、職場環境と人間関係が大きな要因となっていることがわかります。上記の理由に加えて、転職のしやすさも看護師の離職の原因と指摘されています。医療業界全体が人手不足の状態であるため、看護師の免許さえ持っていれば比較的容易に再就職できます。他の仕事に比べ、より良い条件の職場に転職しやすいといえます。
解決策と改善への取り組み
できるだけ長く働いてもらうためには、どのような対策を行うとよいのでしょうか。職場環境改善の第一歩は、公平な勤務体制を構築することです。3交代制で勤務する以上、負担が大きい夜勤の発生は避けられません。シフトをする際は、特定の人に夜勤が偏ることがないように公平に決めなければなりません。それと同時に、交代時の引継ぎをスムーズに行う仕組みを整えて、看護師が休める時間を増やす必要があるでしょう。
シフトと同時に改善しなければならないのが職場の人間関係です。現代の医療は医師を中心に医療担当者が連携して患者の治療にあたるチーム医療です。看護師はすべての医療スタッフとかかわる病院運営の要となる存在であり、看護師同士や他の医療スタッフとのコミュニケーションにズレが起きると医療の質の低下をもたらすかもしれません。
管理者は定期的に1on1ミーティングを行うなど、部下との信頼関係構築に努める必要があります。1on1ミーティングを通じて看護師一人ひとりの状況を把握し、適切なアドバイスを行うことで一人で抱え込まない体制をつくるべきでしょう。また、大きなストレスを抱えている看護師のケアも重要です。孤立させず、チームでフォローすることでメンタルケアを行いましょう。
また、一度離職した看護師が再就職しやすい環境を整える必要もあります。結婚や出産といったライフイベントが原因で離職した場合、状況が落ち着けば再就職する可能性があります。看護師免許を持っているにもかかわらず、看護師として働いていない人に呼び掛けて、その人が働きやすい環境で再就職を促す取り組みも必要です。
まとめ
今回は看護師の離職率の高さや理由、解決策を中心に解説してきました。新型コロナウイルスのパンデミックにより、医療機関の重要性と看護師が抱えるストレスが浮き彫りとなりました。もともと大変な仕事であることは認知されていましたが、看護師が日頃から大きなストレスにさらされていることがはっきりわかったのです。
看護師の離職率を下げるには、やりがいなどの精神的な支えだけでは不十分です。待遇面の改善を図ると同時に、公平なシフト作成や看護師のメンタルケアなどを積極的に行う必要があるでしょう。
