10人に1人が80歳以上という世界最高水準の超高齢化社会にある日本では、現在さまざまな課題の解決が求められています。健康に長生きするための仕組みを整えることも、そのひとつです。この記事では日常生活の動作が困難な高齢者や認知症をもつ高齢者などを対象とした、最小限の負担で療養できる「在宅医療」について詳しく解説します。
在宅医療の概要
在宅医療とは、病院やクリニックではなく、自宅で医療サービスを受けられる仕組みのことです。医師や看護師が患者の家を訪問し、必要な治療やケアを提供することで、患者は自宅などの住み慣れた環境で過ごしながら、身体の健康回復をはかれます。
病院やクリニックに訪問しないで治療を受けられるので、通院や待ち時間の負担がなく、心身にかかるストレスを軽減できることが大きな特徴です。これは患者本人だけでなく、家族や介護者など付き添いを担当する方の負担軽減にもつながります。
また、在宅療養は一般的な入院治療と比べて医療費の負担も抑えられます。在宅医療を利用者は、高齢者や慢性的な病気を抱える方など日常生活の動作が困難な方や、退院後も継続的な治療が必要な方などに多く見られます。
在宅医療は国も推進するサービスで、在宅医療や訪問看護推進についての情報提供や啓発リーフレットの配布や地域人材の育成、関係者間の連携体制の構築の支援などもおこなっています。
在宅医療のメリットとデメリットは
在宅医療には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。ここでは、その両面について詳しく見ていきましょう。
在宅医療のメリット
在宅医療の最大のメリットは安心感と快適さがあることです。患者は自宅という馴染みのある環境で治療を受けられるため、緊張や不安といったネガティブな意識をもたず、常に安心して過ごせます。病院とは違い、家族と一緒に過ごす時間が増えるため、精神的な安定も期待できます。
また、通院にかかる手間や労力が不要なこともメリットです。通院に家族や介護担当者などの付き添いが必要な場合は、彼らの負担も低減できます。さらに感染リスクを下げる効果もあります。
多くの患者が集まる病院では、常に感染症のリスクがつきまといますが、自宅医療であればそのリスクを大幅に減少させられます。また、在宅医療では、患者一人ひとりに合わせた個別ケアを提供してもらえます。
医師や看護師が定期的に訪問し、患者の状態をきめ細かくチェックすることで、適切な治療が期待できます。
在宅医療のデメリット
在宅医療の最大のデメリットは、医療設備に限界があることです。自宅には病院のような高度な医療設備が整っていないため、対応できる治療や処置に限界があります。緊急時には病院への搬送が必要となることもあります。
さらに、在宅医療は医療保険の対象となる場合もありますが、すべてのサービスが保険でカバーされるわけではないため、費用が多くかかる可能性があります。特に、訪問リハビリや栄養管理などのサービスには追加費用がかかることがあります。
また、在宅医療では、緊急時に即座に対応できる医療スタッフや設備がないため、迅速な対応が求められる場合に不安があります。在宅医療では、患者の家族がケアに積極的に関わる必要があります。特に介護が必要な場合、家族の負担が大きくなることがあります。
状況に合わせてヘルパーサービスを利用するなど、適切なサポートやリソースを利用することが大切です。
在宅医療での可能な処置とは?
在宅医療というと「往診」や「訪問診療」が一般的ですが、それだけではありません。患者の生活の質を向上させるために、多岐にわたる医療処置が提供されます。これらの処置により、患者は病院に通うことなく、自宅で安心して療養することが可能となります。
医療機関やクリニックによって受けられるサービスは異なるため、検討の際には必要な医療サービスを提供していることを必ず確認しましょう。
診察と治療
医師が定期的に患者の自宅を訪問し、健康状態をチェックします。血圧や体温の測定、症状の確認など、必要な診察をおこないます。
薬の処方と管理
必要な薬を処方し、服薬管理をサポートします。薬の副作用や効果を確認し、適切に薬剤管理します。脱水症状や栄養不足に応じて、点滴治療も可能です。抗生物質の投与や、特定の病状に応じた薬剤の点滴も可能です。
看護ケア
手術後の傷や褥瘡(床ずれ)を手当てします。傷の消毒や包帯の交換など、感染を防ぐためのケアが受けられます。
カテーテル管理
尿カテーテルや胃ろうなど、体内に挿入された医療器具を管理します。定期的な交換や清掃により、感染を防ぎます。
リハビリテーション
筋力や関節の動きを改善するための運動療法を実施します。ベッド上での運動から、立ち上がりや歩行の練習まで、患者の状態に応じたプログラムを提供します。作業療法では、日常生活で必要な動作の練習が受けられます。
食事や着替え、入浴などの基本的な動作を再学習し、自立した生活をサポートしてもらえます。
緩和ケア
がんなどの末期患者に対して、痛みを和らげるための治療が行われます。鎮痛剤の処方や、精神的なケアも含まれます。また、呼吸困難や不快感を軽減するための治療として、患者ができるだけ快適に過ごせるように、個別のケアが提供されます。
在宅医療が受けられる対象者
医療機関やクリニックによって異なりますが、在宅医療を受けるにあたって、特定の病気や症状の程度などの必須条件はありません。一般的には高齢者や難病者、寝たきりの方、歩行困難な方など通院が困難な方に多く利用されています。
また、がんの終末期など、住み慣れた家で心穏やかに過ごしたいと希望する方からも、在宅医療サービスは選ばれています。ここでは在宅医療サービス利用をおすすめする対象者を解説します。具体的に在宅医療の利用を検討する場合は、対象となる医療機関が提示する対象条件を確認しましょう。
高齢者
日常生活を自力で行うことが難しい、介護が必要な高齢者は、在宅医療の対象となります。また認知症を持つ高齢者も、慣れた環境での生活が重要となるため、在宅医療を受けることをおすすめします。在宅医療により、自宅で安心して過ごせます。
慢性疾患を抱える方
心臓病や糖尿病などの慢性疾患を持つ方は、定期的な医療管理が必要です。在宅医療を受けることで、病状の管理や薬の処方を受けられます。また、慢性的な呼吸器疾患を持つ方は、対象の医療機関が在宅人工呼吸療法に対応していることの確認が必要です。
退院後のケアが必要な方
手術後や急性期の後などの回復期を自宅で過ごします。在宅医療でのケアでは、傷の手当てやリハビリテーションが受けられます。
緩和ケアが必要な方
末期のがん患者に対して、在宅医療で緩和ケアを受けられます。痛みや症状の管理、および患者ができるだけ快適に過ごせるようなサポートを受けられます。
移動が困難な方
移動が困難な身体障害者や、難病を抱える方にとっても在宅医療は大きな支えとなります。自宅で必要な医療ケアを受けられます。
長期療養者
長期間にわたり療養が必要な方も、在宅医療の対象です。病院に通うことなく、自宅で治療を続けられます。
まとめ
在宅医療について可能な処置や対象者などを解説しました。在宅医療は通院が困難な難病患者や高齢者、自宅での生活を望む患者やその介護者にとって、通院負担の軽減や感染リスクの低減、精神安定などのメリットがあります。
在宅医療という選択は、患者の生活の質を向上させ、安心して療養する環境の調整を可能にします。在宅医療を検討する際には、医師や看護師と十分に相談し、対象者に応じた適切なケアが提供でき、かつ患者や家族に最適な医療サービスを選びましょう。